自衛隊と警察は違憲か:憲法学の「通説」について

憲法学の標準的な教科書(岩波、有斐閣)をいくつか読むと、驚くことが書いてあった。

9条で不所持とされる「戦力」には、自衛隊はもちろん、警察も含まれるとするものだ。教科書には「有力な説」として紹介されていた。(ただし、あくまで脚注においてである。しかし脚注といっても同一ページに段落違いで掲載されるタイプの脚注で、実際には補足的な副文、つまりは結局読者が目を通す本文である)。

法解釈学でそうした説がありあるのはわかるが、しかしそれが「有力な説」であるとして、その提唱者についてさえも明記しないとは。しかもそれが権威とされる芦部信喜氏による教科書なのだから、これは衝撃だった。(他の教科書では誰の説かは明記されているが、全体的な説明としては護憲派の主張にそうものだった。)

もちろん憲法は国民のものであり、どこにも学者に主権があるとは書かれていないが、日本の憲法学は護憲派によって独占されているのではないかと懸念する。法学部の方からすればこんなことは常識なのかもしれない。

さて、護憲派、いや9条主義者のなかに、どれだけこうした「武力なき自衛権」を支持するひとがいるのだろう。この立場からすれば、自衛隊と警察は憲法違反の非合法組織ということになる。

さすがにそれを主張するひとは、いたとしても9条過激派だろうし、今回もそうした声を聞いたわけではない。しかし、「有力な説」と、有力な権威をもつ教科書に書かれているんだよなあ。

この説によれば、許されている自衛権は、民衆が武器をもって対抗する場合とのこと。外交も自衛権と書かれているが、これはさすがに間違いだと思うし、なにをいってるんだろうか?外交が禁止される対象として論じられている??

しかし、アメリカのように民兵憲法で保証されており、銃所持なども許されている国とは違うわけで。
というか、どう考えてもこの説は荒唐無稽なのだが、常識的に。

おそらくは、戦争直後のまだ暴力革命を信奉していた頃の日本共産党系の法学者による説ではないのか。

いや、ヴェーバーが定義する暴力の独占としての国家、という説明はわかりますよ。

わかりますけど、それをそこで書くかな?初学者の教科書で。瑣末な理論のようにしか思えない。

ガッツリ説明されてあればそれはそれで興味深いですがね。

警察が違法だなんて、交番に向かっていいたくなるではないですか。

「おまわりさん、あなたは非合法の公務員なんですって。警視庁も非合法組織なんですって。先生がいってました。」

って、兄貴がセクト活動家だった中学生みたいじゃないですか。こんなこというと。


むかし、自衛隊は非合法組織だと聞いたことがあった。そういう風に考えるひともいるんだろうということで都市伝説のようにおもっていた。

どっこい、いまでも現役で、それも教科書でくりかえしくりかえし刷り込まれているということか。

しかし、そういうこといって共産主義革命の種になるとでも夢をみておられるのだろうか。

それに、共産主義国家で軍・警察組織が不在なわけがないわけで。

であれば、むかしの革命家が夢想するのはわかるが、いまやそんなこといってなんの意味もない戯れ言ではないのか。

もちろん、戦前の言論統制や軍部暴走という歴史認識はわかる。
しかしそれはそれでまた別に書き方があるだろう。

あるいは、9条絶対主義が前提にあって、それを示唆する目的で、「有力な説」として紹介しているのであれば、多数派論証というやつではないか。

権力を持つ学者が、しかも一流とされる学者がそれをやるのは、さすがに反則ではないか。これもまた権力の濫用ではないか。

と、瑣末だがやはり重要な一件であるとおもわれるので記す。