武士道残酷物語とリアリズムの系譜

今井正監督「武士道残酷物語」(1963・東映)を弟の推薦で見る。たしかにこれは面白い。
原作は南条範夫「被虐の系譜」。
溝口健二西鶴一代女」を思わせる構成だなと思っていたら、脚本に依田義賢が参加していた。

直訴した農民をサド君主が鋸引きする場面、その首を鋸引きする描写は行なわれず、映画は終始端正なのだが、後の「サロー(ソドムの市)」パゾリーニの最終場面を彷彿とさせる。
 この映画はベルリン映画祭最優秀賞をとっているし、また日本マルクス主義系映画(「傾向映画」の系譜)を好みモデリングしていたパゾリーニも当然見ていることだろう。そう考えると、「サロー」は案外「武士道残酷物語」のヴァリエーションないしオマージュのようにも思える。
 もうすぐ翻訳が出るという噂の小説「石油」は、ドストエフスキー「悪霊」のヴァリエーションで、舞台を現代のニューヨークにとっているというが、それもなんだかこの「武士道残酷物語」の影響かもしれん。
 というか、日本の戦後リアリズムには、イタリアのネオリアリズモの影響著しいわけであって、映画はもちろん漫画の手塚治虫らにも及んでいる。
そういう意味では今井正パゾリーニは兄弟ともいえる。

 ロッセリーニや溝口の端正な古典的リアリズムから、パゾリーニファスビンダー若松孝二らのヴァリエーションがあり、イーストウッドスピルバーグのリアリズム系統のものがあり、「実録・連合赤軍」の直接描写(とでもいおう)によるリアリズムに至る。

 それにしても森雅之中村錦之助はなんというはまり役。