金石範

先日、青山学院大学日本文学科主催のシンポジウム「もうひとつの日本語」の開催情報を前日に知り、そこでなんと、あの金石範(キム・ソクポム)さんが講演するというので馳せ参じた。
 金石範という作家は一般にはあまり知られていない。なぜそうなのかも、十分知識社会学の対象となるのだが、それはともかく、金石範さんは現在日本に在住する作家のなかでも最高水準にある方である。
 というか、「火山島」を読まないまでも(私もまだ読めていない。当日、はじめて読破した方と会った。)手にすれば、それがフォークナーやパゾリーニラシュディやパトリック・シャモワゾーの小説に匹敵するものであることは、どんなぼんくらにも分かるだろう。
 

金石範作品集〈1〉

金石範作品集〈1〉

金石範作品集〈2〉

金石範作品集〈2〉

鴉の死・夢、草深し (小学館文庫)

鴉の死・夢、草深し (小学館文庫)

 ここ数年来、金石範さんの講演会に行きたいと念願していたのが、ようやくかない、ご本人を見れただけで感無量といったところに、パネリストのなかに同年生まれのチェ・ジンソクという名前がある。そういえば大学の同窓生で、後に韓国に留学したと聞いたのが最後、もう15年ほど音沙汰のない「ジンソク」という奴がいたなあ、まさか本人かとか思って、壇上の立った彼を見ると、髪型が一緒だ!間違いない。
 しかも、微妙に首を細かく振るしぐさからも、確実だ。

 ということで講演後、声をかけるとやっぱり彼だった。

ジンソクくんは昨年、李箱(イ サン1910-1937)という作家の翻訳を出版した。

李箱作品集成

李箱作品集成

 
 買わないといけない。
またジンソクくんはテント芝居「野戦之月海筆子」で俳優業も始めていた。http://www.yasennotsuki.com/

 なんとまあ。
 
 金石範さんにサインをもらう。夏に谷川健一さんにサインをもらって以来だが、どうも自分が翁趣味だと揶揄されそうだが、お二人はすごいですからねえ。
 
 また青学教授の佐藤泉さんはこれまた森崎和江という、自分でも昨年から企画していた関連の方について発表。
 同教授の片山先生は菊池寛と朝鮮との関係というもので、これもとても面白かった。 
 片山先生の声はとてもすてきで、失礼ですが松平定知アナウンサーに声が似ていますね、とあとの二次会で本人に言ったら、無視された。学生の方は笑っていたが。

 結局、金石範さんとはみなさんのおかげで、二次会まで一緒にいることができた。

 金さんだからこそいえる、私のとっておきの話し、「私は百済人です」という話し(ある程度実証できる)をすると、
 「15世紀前の話しですねえ」と笑っておられた。

 講演で金さんは「全体小説」とおっしゃったので、ヘルマン・ブロッホのことですかと尋ねると、野間宏ら、戦後「日本語文学」(金石範さんの提唱するカテゴリー)のこととのことで、さらに誰に影響を受けましたかと尋ねると、ドストエフスキーとのことだった。ドストエフスキーに影響を受けた作家といえば、パゾリーニ

 火山島はまだ英訳がないらしい。といって、私もまだ読んでないし、金さんご本人も「長すぎたね」とおっしゃりながらも、まだ書き継いでおられる。
 昨年、済州島に行き、四・三事件の犠牲者の遺骨に触れられたらしい。

 「火山島」の英訳が出れば、ノーベル賞は間違いないと思うのだが、そういえば大西巨人さんの「神聖喜劇」(漫画版は英訳があり賞をとったようだ。そういえば金さんにも言ったが、「火山島」の漫画化もありだ。)や埴谷雄高の「死霊」もまだ英訳ないようだ。

 とまれ、金石範さんはエネルギーの塊のような人で、畏れ入った。

 「火山島」、どうも絶版のようで、文春文庫(版元が文芸春秋がゆえ)でとにかく出して欲しい。

 先日、ミシェル・ビュトールの講演にも行ったのだが、最近の私の関心の赴きのせいで、こちらは淡々としたものだった(むろんこれは私の問題であって、ビュトールさんの問題ではない)。それでも、主節文、副節文や時間と映画の話し、それから「ヌーヴォー(かヌーヴェルか)テレビジョン」の話しは面白かった。
 しかし、日仏学院アラン・バディウを呼んでくれないものか。