田中泯の空間呼吸

たぶん、ネットだけの宣伝なのに、すごいひとであった。で、長い暗転のなか、かのオーヴェルニュの歌(だったと思う。舞踏の聖歌。)が流れる。黒い紙が半円筒形状に、舞台を包んでいる(というか、どう記述すればいいのか、分からない。こういう記述も、またレッスンしなきゃ。あらためて。)。このときの照明が、なんとも美しい。ロスコ炊いてるわけではないのに、蒸気が見える。もやが見える。闇のなかで、眼は、必死でなにかを見ようとするもの。さえぎられると、眼は、さらにその光の欠如を埋めようとする。ほとんど、自動的に。反応というがいいのかもしれない。そのなかでうずくまっている人物。白い紙袋をか
ぶっている。黒い着物に赤い帯。微速のダンス。像は結ばない。ひとつのフォルムにとどまらない。運動が、生成変化が、ただ、持続していく。呼吸が続く。空間が呼吸されていく。…ナイフが取り出される。上を指し、下を指し、また上を指し…、人物はなにをするのでもない。なにかある行為をなしているわけでもない。バラッド。彷徨する体。後ろを向き、紙をナイフで二度指す。切り取る。ナイフは、紙袋のなかに落とされる。正面に向かう。背もたれる。そうして、切り取られた隙間から、去って行く人物。カーテンコールで、そこから顔を覗かせる田中泯さん。さすがに秀逸である。
終演後、泯さんからあれは、自分の影をさしていた。はじめは、腹、ついで胸、そして自分の影を象りながら、切り取った。8割りはunknown。フランス人が、雲のようでもあったという。雲ではない、人間の体だという泯さん。グロトフスキの生徒でもあったジャクリーン・キムさんと話す。床の下より引っ張られることが、主なwsの課題であったという。ポルトガルのダンサーと、オリヴェイラについて。宇野邦一さんに挨拶する。
 村上裕徳さんが脚注を担当した江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集「子不語の夢」晧星社が出版された。子不語の夢―江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集