ND型

 私の体は酒に強くはない。かといって、まったく飲めないわけでもない。しかしどちらかといえば、弱い方だ。
 知人には、一口すらも受け付けないひともいる。また、ざるのように延々飲めるひともいる。しかし多くのひとは、ある程度飲んだら、酔っぱらう。
 
 そんな酒の強さ弱さについて、分子生物学は科学的に説明してくれる。 
http://www.athome-academy.jp/archive/biology/0000000176_all.html

まずはアルコールと身体の仕組みについて。

体内に取り込まれたアルコールは、まずアセトアルデヒドに分解され、次いで酢酸、最終的に水と二酸化炭素になって体外へ排出される仕組みになっています。30年ほど前までは、アルコールを分解するアルコール脱水素酵素(ADH)を構成する遺伝子が、酒に強いか弱いかを決めている、関係していると思われていました。しかし実は、これは関係なくその次の段階、アセトアルデヒドを分解するアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)にあるということが分ったんです。
詳しく言うと、アセトアルデヒドと言うのは「悪酔いの原因物質」と言われ、これが体内にたまると顔が赤くなったり、気分が悪くなったりします。これを数種類のALDHが酢酸に分解して無害化するんですが、その中の一種であるALDH2をつくる遺伝子の型の違いが大きく関係しているんです。

アセトアルデヒドを分解するアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)が、酒飲み能力を決めるとのこと。

ALDH2をつくる遺伝子には、酒に強い、いわゆる分解能力が高いとされるN型(ALDH2*1)と、突然変異で分解能力が低下したD型(ALDH2*2)があります。誰でも両親からいずれか一つずつを受け継ぐので、人間にはNN型、ND型、DD型の三パターンあることになります。NN型はアセトアルデヒドの分解が速く、たくさん飲める酒豪タイプ、ND型はそこそこ飲めるタイプです。そしてDD型は、体質的にほとんどアルコールを受けつけない、まさに下戸タイプです。

私はそれゆえ、ND型。
顔が赤くなるのがサインで、ゆっくり飲むこと。そして、御酒を飲めないひとに対して無理に勧めるべからず。これは本人の意思に関係なく体質の問題である。
さらに、面白い調査をこの先生はなさっている。
酒に強いN型遺伝子は、北海道・東北・南九州・沖縄に多く、関東・北九州・四国は中間で、D型が多いのは、北陸・中国・近畿・中部。
 さらに、コーカソイドネグロイドにはNN型しかおらず、D型遺伝子を持っているのは、東アジア人とアメリカのインディアンのみ。

現在の分子人類学では、すべての人類はアフリカで誕生した原生人類から分岐していったとするアフリカ単一起源説が有力であるが、D型遺伝子はモンゴロイド人種のなかで起きた突然変異ではないかという。

D型はN型遺伝子の突然変異でアセトアルデヒドを分解する能力が低下したものなんです。ですから、そもそも当初人類にはN型しかなかった。そこに突然変異が起こり、D型ができた。おそらく2〜3万年前にモンゴロイド人種の中で起こったことだと思います。

 

また、コーカソイド人種であるハンガリー人やインド人にも、D型遺伝子を持った人がいるという。モンゴル帝国によるものか。
また、米国では相当に深刻な問題となっているアルコール依存症は、酒を飲めるNN型のひとが多いとのこと。

 さて、すでにこの話題については友人にも喋っているのだが、D型遺伝子は、個人的には、進化だと思っている。
 もし私が酒にもっと強かったら、酒代がかかり、もっと生活はきつかったはず。つまり、酒がそこそこ飲めて、かつ弱いというのは、経済合理的に見て、好ましい。
この進化は神の恩寵であるかもしれないし、あるいは、2万年前のだれか恐ろしいまでの天才が、分子生物学的な技術を発明し、操作したのかもしれない。
だから、酒に弱い方というのは、これからは胸を張って、無理に酒を勧められたら、「進化してしまったので、ごめんなさい」といって断りましょう。