帝国:ニーアル・ファーガソン

正月に「憎悪の世紀」を、正月らしく、ということで買ったのだが、まだ通読していない。
 文脈としての人種差別主義に関する記述は、膨大で、面白いのだが、ちょっと疲れた次第。
 このファーガソンは、歴史家の若きスターであるが、ブッシュ政権の中東政策を支持したということでも有名だ。まあ保守派といっていいだろう。

 そんなファーガソンは、イギリス帝国のインド統治に比べて、アメリカは帝国ですらないといっているらしい。
http://d.hatena.ne.jp/HODGE/20080112/p2
http://d.hatena.ne.jp/HODGE/20070630/p2

 話がそれるが、調べていて、ムガル帝国(1526-1858)がモンゴル系だとは知らなかった。「ムガル」とはペルシア語の「ムグール」からで、モンゴルのこと。もっとも、モンゴル帝国を継承するというより、ティムール帝国(1370-1507)を継承するものである。
 さてまあ、ムガル帝国より、大英帝国の方がよかったとファーガソンタリバンよりアメリカがいいだろうというのと同じ論理ではあるのだが、ここもまた日本に引き戻すと、旧日本帝国と、アメリカの統治どちらがよかったかという話と同じではある。
 多くの日本人にとっては、アメリカへの愛憎もありながらも、旧日本帝国時代の方がよかったとは思えないだろう。ごく一部を除いて。
 同様、戦後ドイツよりもナチスがよかったというのは、ネオナチ(最近あまり聞かない)くらいだろう。
 まあ、ファーガソンの言い分はたしかに正直な論理としては分かりはするが、さてではインドは独立しない方がよかったとはまさかいわないだろう。
 このへん、「植民地主義民族自決問題」でも触れたところだが、http://d.hatena.ne.jp/kairiw/20080320#p4

 一次的に、という意味では、やはり民族自決の原則の方を私は選びたい。ファーガソンはたぶん政治よりも経済を、感情よりも利益計算を、という考えなのだろうが、穏健な資本主義なるものが仮にあるとして、ひどい暴力を加えないような統治であればまだしも、アメリカは…、あ、そうか、アメリカの半端な「帝国主義」を批判しているのか。
 では、モデルとなっているイギリスの植民地経営については、私はまだ知らないが、セポイの反乱とかの実情も知らない。しかし、アヘン戦争は無茶だろう。少なくとも。
 しかも、アヘン戦争の余波は、太平洋戦争まで行くわけだから。
それとも、大英帝国はそれすら計算に入れていたというのだろうか。

 実際問題、イギリスとアメリカ、いろいろ考えてはいるのだろうが、何を考えているのかわからないところがある。
 たとえば、

アメリカをイラク侵攻まで持ち込んだのは、ウォルフォウィッツら国防総省ネオコンの人々だった。彼らが「何が何でもイラクに侵攻する」という姿勢を貫いたのは、アメリカの覇権力を自滅させるためだったのかもしれない。だが、石油利権にとっても、軍事産業にとっても、イスラエルにとっても、アメリカの世界覇権が続いた方が良いはずなのに、何のためにアメリカを自滅させたいのか、その説明がつかない。(ネオコンは左翼からの転向組なので、彼らは実は隠れ極左で、アメリカを壊すことが究極の目的だった、という仮説が成り立つが、にわかには信じがたい)
http://tanakanews.com/d1202empire.htm

いわゆるネオコンの方々に元トロツキストが多いというのは有名ですが、でもまあ、「永久革命」ということで、もしかしたら、この「仮設」もありかなとも思うものも、それ、やっぱり意味不明。
 
 だからこれは私の仮説ですが、イギリスにせよアメリカにせよ狡猾でひどく鋭い頭脳を持ってもいるが、案外、バカだろうと私は思う。だって、コーラをどれだけ飲んでいますか、彼らは。英国人は紅茶か…。
さて日本に関するアメリカの統治については、これもまた非常に微妙な問題なのだが、たしかに、アメリカはうまくやったとは思う。また、現在に至る結果からすれば、当時の日本のエリートもよくやったとは思う。いやもちろん、もっとも努力したのは一般の市民である。
 さて、それはそれで、では今日の日本社会の問題的性格とはなにか。
ひとつには高度に体系化された官僚制。「体系化」などというと、よっぽど進化したのかみたいな話になるが、うーん、そうではなく、法規が増えすぎて、つまり体が重くなりすぎて、にっちもさちも、というところだろう。
(続く)