イマージュオペラ>>ロマンティック<< メモ 1

以下は、イマージュオペラ>>ロマンティック<< 「死の病い、居留地にて」のある日の稽古のさいに、ダンサーへ送信したメモだ。pcに置いておくと、紛失することもあると思われ、メモとして、ここに載せる。
たしかこれは、洗足池スタジオでの初稽古の前日に送信された。


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以下、ぼくが着く前に読んでおいてね。とくに後半。ぼくのダンスの基本モチーフです。ぼくがなぜ中断や滞留を重視するか、なぜ自分の「自然な」動きに呑み込まれたらだめなのか。そのひとつの説明です。
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テキストは、あくまで素材である。上演で具体化されるアイデアを導くためのきっかけということだ。
それゆえ、私はひとつのテキストに限定しない。問題はあくまで、デュラスおよび彼女のテクストとどのような関係を切り結ぶことができるか、である。デュラスは、ひとつの「全体」である。デュラスとの最も良い関係とはいかなるものか。
テキストとの関係の倫理とは?
テキストの再現が必要なのではない。あれだけ完全なテキストを再現することは、無理である前に、私には冒涜ともおもえる。
私はデュラスを崇拝しているわけではない。デュラスは自身の偶発的な体験を、芸術化=昇華することで、「決定的経験」へと変えた。私にできることは、可能な限り、彼女に近接しようと努力することだけだ。
彼女にとってとりわけ重要な二つの体験がある。植民地における幼年期と、恋人であったアンテルムがナチに拉致され収容所を体験したこと。植民地とホロコースト、デュラスの体験の場合、そこに愛の主題が貫通している。
デュラスは旧約聖書的な荘厳な文体で、暗示的に、人間の姿を描いた。
ひとはさまざまな欲動によって生きる。だがおおくの欲動は、社会的なもののレベルでしかない。それはヘーゲルのいう他者からの承認を巡る争いの範疇内に収まるものだ。その限りでの生、エロスは、私にとっては、問題ではない。
むしろそうした生=エロスが消滅する事態、愛が死にほかならない瞬間が重要なのだ。
トリスタンとイゾルデ、愛の死。
絶望が死に至る病であるとすれば、絶望とは、愛でもある。
愛は破壊する。社会を破壊する。
あるいは、世界が炎上した後で、わたしたちは隔てられ……
無関心。愛における絶対的無関心。
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・三角形
ダンサーa,b,cの軌跡線(abcを点としてむすばれる線)は、基本的に三角形を描く。
 男、女、旅人(変更可能)
関係を踊る。=関係コンタクトを作る。
微速の強度は持続させながら、速度を速める。(勿体ぶることを避けるため)
「慎重に」ではなく、むしろ重要なのは、「確信」である。
慎重さは自己保身に陥りがちだから。
確信を持つとは、より「確かな」動きへ、「正確さ」へと到達するため。
「正確さ」は、真理と言い換えることもできる。真実といってもいい。
しかし嘘も真実でありえる。
ばれる嘘=弱い嘘は絶対的に排除しつつ、真実を産み出す嘘、真理としての虚偽へと至ること。
しかしその虚偽の性質はすでに真理であるのだから、それはもはや虚偽ではない。
いいかたを変えれば、虚偽とは、否定性である。
「それは〜ではない」という否定作用。
弁証法:即自から対自へ。自己は他者との関係においてのみ形成される。
しかし、自己はすぐに他者の他者性を回収するだろう。
他者性を維持していくとは、つねにより遠くへ行こうとすること。
しかし自己はすでに他者である。
回帰はするだろう。だが、運動は続く。
おおくの人はそれが螺旋の軌跡を描くとする。
しかし軌跡は、三角形でも四角形でも立方体でも、描きうるだろう。
それは分からないことだ。
しかし人生の本質ともいえる自己の運動の軌跡が、どんな軌跡を描くかなど、事前に予測はできない。
ただ、試みることはできるだろう。仮に自由なるものがあるとすれば、それはこころみるということ。
自由とは、舞踊の本質でもある。
もとより即自的な自由とは消極的なものにすぎず、自由とは対自的でなくてはならない。
それは他者への関与のなかで、他なるもの、絶対に現前しない神的なるものと関わるということだ。
「神は絶対に現れない」(デュラス/パスカル
世界の悲惨への抵抗は、無為でもあるだろう。
だが社会的有為性とは、社会という自己の保存の欲望にすぎない。
自己保存の欲望は、たしかに欲望の本質ではある。
しかし精神分析、とりわけラカンが分析したように、それはすでに他者の欲望だ。
もはや他者と関わることはできないのかもしれない。しかしそれなら、わたしたちは何と関わっているといえるのだろうか?
死もまた他なるもの。裏返された生であるのかもしれない。とまれわたしにとって生とはそのようなものである。愛、死、他なるもの、神と関わるということ。

距離:遠さ:いかに遠さを踊れるか(想像上の距離の現実化)