付:ナチズムにおける「社会主義」

 ナチズムも、「国家社会主義」を唱え、ワイマール社会の大衆に向けて、夢を訴えた。
しかしそれはマルクスの構想とはまったく無関係のものであったし、社会のすべての構成員が公正な生活を送るという目的を持ちはしなかった。ナチズムの実体は、神話的な民族主義であり、その筋書きは、「偉大なアーリア民族」が世界を支配するというものであった。
 しかしなぜヒトラーは「社会主義」という語を使ったのだろうか。
おそらくは「反ユダヤ主義」が先にあり、「金持ちユダヤ人」はドイツ人を収奪しているという考えから、「ブルジョワユダヤ人」と「労働者」としての「ドイツ人」という概念的対比が生まれたがゆえだろう。
このような意味で、多くの大衆が貧困に苦しんでいたワイマール社会のなかで、「社会主義」という語を使用することは、政治的に有効だと考えられた。
しかしまた他方、ナチス共産主義を非常に憎み、虐殺した。それは共産主義の構想が、ナチスのプログラムよりも魅力があり、どころか、共産主義が普及すれば、ナチズムが根底から崩されることをナチスが知っていたからだと私は思う。
 いずれにせよヒトラーにあっては、「階級闘争」よりも神話的な民族主義の方が強かったのだが、結果として、ドイツの共産主義運動は、どれだけ歪曲されたといっても、その潜在力はヒトラーに奪われた。